映画『ノルウェイの森」で、ヒロイン直子を包み込むお姉さん的存在・レイコ役を演じる霧島れいか。深い傷を負う登場人物たちの中で、レイコもまた静かに傷と向き合っている……。そんなガラスのような壊れそうな役柄と強さを演じた霧島さんに、映画の舞台裏、またこれまでの役者人生についてお伺いしました。



ピックアップ魂 vol.3
霧島れいか篇


OLからモデル、そして女優へ

― いつごろから役者を目指されていましたか?

女優の世界に興味を持ったのは中学生になってからですね。ドラマを見たり、映画をみることでその世界に憧れがわいて、私もこの道に進みたいなと思っていました。高校3年のときにオーディションに行き、運よく合格したのですが、親がとても厳しくて。一度断念して、そのまま就職したんです。

―何のお仕事をされたんですか?

普通のOLです。結構暇だったのと、性に合わなくて、就業中に絵を書いたりしていました(笑)。行きつけの美容師さんとそんな話をしていたら、「違うことをしたら?モデルさんとかできそう」というようなことを言われて、ああ、そういう道もあるなあって。仕事を辞め、名古屋のモデル事務所に入り、3年間ほどモデルのお仕事をさせていただいていました。

―そこから女優に進んだきっかけは?

モデルの仕事は、普通にスチールの撮影が多かったのですが、ときどきCMのお仕事をさせていただいていました。そうすると多少演技が入るので、とてもテンションが上がるんですよね。東京でCMのお仕事をしたとき、俳優さんとお話できる機会があって、「役者に興味があるんです」ということを相談したら「じゃあ東京に出てきた方がいいよ」と言ってくださったことで背中を押されて決断できました。事務所に相談したら「向いているよ、がんばって」と、快く送り出してくださって。人の言葉でポンポンと運命が開けた感じですね。

 

役者には「削る」作業も必要

―初の映画出演は「催眠」ですね。

それまでにも自主映画にはかなり出ていました。自分たちもスタッフをやったりアイディアを出したり、意見を言って監督と衝突したり。その経験は今でも宝物ですね。ただ言われたことを演じるだけではないとか、思うことを伝えるとか。

― モデルと女優、霧島さんの中で違うものとか、活かされるものはありましたか?

モデルの時は、自分がキレイじゃなきゃいけない、かわいくなければいけないというのがあるから、自分だけでいい。でも、役者としてだと、セリフがあって、動きがあって、そして何より相手がいる。だからこそ、出過ぎちゃいけないときがあり、「自分」という存在をコントロールするということが最も違うのかもしれません。

― なるほど。セッションですからね。

はい。役者さんってあれもこれもやりたいっていうのがあると思うんですけど、私は、減らしていくというか、「削る」作業をしていくんです。

― 「削る」というのは?

ここは相手の芝居だとおもうと、自分は作りすぎないこと。出過ぎちゃいけないところを見極めて、ちょっと下がるような感覚です。自分の役柄と他の役者さんの役柄、そして作品全体を見たときのことを考え、余計なものを削ることで見る人が違和感のないこと。そういう作業が必要かなと思います。 もちろん役によってですけどね。「運命じゃない人」の真紀役は、まず婚約破棄というショックな出来事があって、その悲しい感情を出していく役だったので、プラスしていく作業が多かったです。それでも、イメージを作りすぎないように、容量の半分にして現場に向かうというのはどの役でも変わりません。

― 固めすぎないのですね。

決めていってしまうと、現場で違うとなった時に修正しなければいけないので、できるだけ空白をあけておく。それが私の場合は、例えば円があったら、真ん中から半分くらい空ける感覚です。昔は役の履歴書をつくったりしていたんです。でも、私は監督と話し合っていきたいタイプですし。その場でぱっとひらめいたりするものが大事なのかなって感じているので、監督が演出していきたいところに対応していきたい部分もあります。


―空白を開けておくことは、引き出しが多い霧島さんだからこそできることですよね。

うーん、引き出しが自分にどれくらいあるのかわからないし、多い方だとは思わない。引き出したくさんあった方が監督の要求に応えられて、カメレオンみたいに対応できるのかもしれないのですが、ただ、役者さんの引き出しって、もしかしたら一個あればいいのかなって思うときもあるんですよ。役者さんに対して「あの人、一個しかできないじゃない」って言う方もいるけど、一個できるのがすごい。

― ああ、世界観を持っている方、いるだけで成立する方がいらっしゃいますもんね。そういう方は確かに一個で勝負されている。

その一個が難しいと思うんですよね。おっしゃったように、いるだけで成立して、説明がいらない方。そういう役者になれたらなあって思いますし、大事な一個というものを探すほうが大変。それができるのは素晴らしいと思うんです。

心の中の傷を、どう表現するか


― 今回出演された『ノルウェイの森』(12月11日(土)全国東宝系公開)、もともと原作は読まれていたのですか?

はい。20歳くらいのときに読んでいて、描写がとても記憶に残っていました。ストーリーの細かいところなどは忘れていたのですが、オーディションの前に読んで、改めてとても強い作品だと思いましたね。 そして、レイコのキズやトラウマの部分が、壊れやすいガラス細工のようだと感じました。確かに直子やワタナベよりも大人で、一見とても落ち着いている女性。でも、心の中には確かに深い傷がある。その部分をどう表現するのか、監督ともずっと話し合ってきました。

― レイコは登場人物の中でも、いちばん普通の人間に感じます。役作りにあたっては?

そう。その裏の繊細さをどう表現しようかと思っていた。ただ、原作が強すぎるので、あまり作りすぎないようにというのは監督やスタッフの方の考えとしてありました。原作を置きながら話し合ったりもしたんですけど、こだわりすぎたら役作りができないので、髪を切ったりとかメイクをどうとかは、そこまでしないで、ただ、久しぶりに履歴書を書く作業をしました。最初に作ったことで、そこからどんどん削る作業もできました。

― レイコは、傷ついているナオコを包む大人の女性。映画の中では、自分のことを語るシーンはありませんが、原作を読んでいない人でもレイコの背景になにかあっただろう、直子と同じように傷を持っているのだろうということが伝わってきます。

生い立ちの説明も撮っているのですが、あまりにレイコが強くなってしまうということもあるのか、公開はされていないので、結果、語っていないという形になっています。それでも伝わったと言っていただけるのは嬉しいですね。

外国人監督だからこそのスパイスの入った作品


― 監督であるトラン・アン・ユンさんはヴェトナムの出身の方です。村上春樹さんの「ノルウェイの森」があって、それを映画化することで、どうしても世界観にフィルターがかかってしまう可能性が出る。なおかつそれを外国人監督が演出されています。

監督はインスピレーションを大切にされる方で、妥協がいっさいない。日本のことを知ろうという姿勢が強く、勉強熱心な方でした。日本人だったらどう感じるの?ということを、スタッフや役者たちに何度も聞いて歩み寄ってくださりました。
英語とフランス語、日本語がとびかう現場だったので、監督は大変だったと思います。でも、例えば私がセリフを言っていると、日本語はわからないのに、「今のトーン、少し違うんじゃないか?」というのがわかるんですよ。すごかったですね。最終的には日本にはないスパイスが効いた、とても雰囲気のある映画になったと思います。

― 映画の中で、霧島さんがギターを持って「ノルウェーの森」を演奏しますね。

タイトルでもあり、ビートルズの名曲でもあるので、誰もが曲には強い思いを抱いていました。最初は原曲通りに演奏しようと思っていたのですが、なにか自分の中でしっくりこない。私はあのシーンではもっとスローなテンポで、バラードのように弾き聞かせたいと思った。ナオコに向かって伝えているわけですから、訴えかけるような雰囲気にしたかった。
そこで、自宅でビデオカメラを設置して、レイコのような衣装を着て、照明を使ってライティングして世界観を作り、私が思うリズムで引き語りをして監督に見せたんです。
原曲を変えてほしくないという人もいたんですよ。もちろん、それは絶対意見として出ると思っていたし、それを覚悟で、私が思うレイコを形にしたいと思った。

― 監督の反応はどうでした?

にこにこ笑って「演出したんだね」って嬉しそうでした(笑)。テンポを変えたので、ずれたりしてる部分はあるのですが「歌手じゃないからいいんだよ」とか、「あなたのレイコなら大丈夫だ」と言ってくれたことが心強かったですね。


― 最後、スタッフロールに“曲:ノルウェーの森「霧島れいか」”って出てましたね。ビートルズの曲がベースだけど、霧島れいかが作ったんだ、そんなスタッフの想いが伝わってくるようで。

あれ見て泣きましたね!実際、あのシーンは本当に大変でしたし、私も悩んで苦しんで、周りのみんなも葛藤したところなので。

―『運命じゃない人』では真紀役で、婚約破棄という傷を爆発させて表現する。『ノルウェイの森』では、心の中に深い傷を抱えている。表現方法は違いますが、どちらも傷を負った役です。

ああ、確かにそうですね。生きてゆく中で、傷やトラウマを抱えるというのは、多くの人が経験します。私もそういったことがわかりますし、泣いて表現するときももちろんあって、心の中に抱えるというレイコの気持ちもわかる。そういったことが自分の中に積み重なって、でもそれを削りながら表現して、深い演技になっていられたらと思います。

― ありがとうございました。


 


   

 



編集後記

このピックアップ魂もようやく3回目。
今回霧島さんを扱ったということにはもちろん『ノルウェイの森』のキーパーソンを演じた女優ということもあるが、私の中では『運命じゃない人』で真紀を演じた彼女がこの6年でどのように変わったかを聞きたかったからだ。
インタビューを終えて受けた印象は、思った以上に自然体で役と向き合う女優なのだなというものだった。役作りをし過ぎず自分の中に空白を設けることで、監督の要求をその都度咀嚼し表現できる。それ故霧島さんはおそらく毎回考え、迷い、役と闘っているのだと思う。人間経験をリセットすることは難しい。役者についてもそれは同じ。自分の演技はこれだと決めつけず、常にフラットにできる役者は案外少ない。
真紀とレイコ、心に傷を負った二人の女性を演じ分けた演技の幅は、霧島さんの簡単に見えて難しい心の余白からきているのだ。

(役者魂 担当)

ピックアップ魂
  • 生年月日1972-08-05
  • 出身地新潟県
  • 特技

    バレーボール・水泳

  • 霧島 れいか


    きりしま れいか

    所属事務所:㈲ネスト
【略歴】

新潟県出身。1998年ドラマ『ブラザーズ』(CX)で女優デビュー。

『催眠』(99)『運命じゃない人』(05)『ちーちゃんは悠久の向こう』(08)

など映画にも数多く出演。

バーべット・シュローダー監督の『陰獣』、マイケルアリアス監督の『ヘブンズドア』、

トラン・アン・ユン監督の『ノルウェィの森』など国際的舞台でも活躍する。


【今後の活動】

映画
トラン・アン・ユン監督『ノルウェイの森』 2010年12月11日より公開
→公式サイト

ドラマ・TV
WOWOW『借王2』 1月8日(土)スタート
→公式サイト

出演歴

■映画

 

ノルウェイの森(トラン・アン・ユン監督)

陰獣(バーベット・シュローダー監督)

ヘブンズ・ドア(マイケル・アリアス監督)

キキコミ(西田征史監督)

運命じゃない人(内田けんじ監督)

催眠(落合正幸監督)

■ドラマ

借王2(WOWOW/今後放送)

パーフェクト・リポート(CX)

アザミ嬢のララバイ月のホタル(主演)

パンドラ2(WOWOW)

世界犬作戦(TX)

深夜食堂(TBS)

ふたつのスピカ(NHK)

Room Of King(CX)

33分探偵(CX)

 

■CM

 

フローリングマジックリン

肌研 極潤ヒアルロンミスト